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仏教童話『兄弟のシカ王』

日付:2010年4月30日 関連記事:「仏教文化」第144号より

 

むかし、あるもり千頭せんとうのシカのれがんでいました。

 シカのおう年老としお いて、ほとんどうごまわ ることはなく、菩提樹ぼだいじゅ根元ねもと一日中いちにちじゅう すわ ってシカたちのうご きを見守みまも っていました。

 シカおう は、知恵ちえはたら かせて猟師りょうし や、トラや、山犬やまいぬ などのてき から上手うま れをまも ってきました。

 このおうには子供こどもがおり、あに物静ものしずかで、何事なにごともよくかんがえておこな性格せいかくでした。

 おとうとれのだれよりもちからつよく、何事なにごとちから解決かいけつしようとする性格せいかくでした。

 あるとき、おう息子むすこたちをんで、

 「わしはすっかり年老としおいたから、おまえたちにそれぞれ五百頭ごひゃくとうれをまかせよう。よく率ひきいてくれ」といい、息子むすこたちは五百頭ごひゃくとうずつのれをひきいて、もり二分にぶんしてくららすことになりました。

 数ヶ月すうかげつ無事ぶじぎ、もりちかくの穀物畑こくもつばたけはいっせいに黄金色こがねいろみのらせはじめました。

 穀物こくもつみのるころは、シカたちにとってもっとも危険きけん時期じきでした。

 人々ひとびと穀物こくもつあららすものをらえようと、あちこちにわなを仕掛しかけていました。

 いたおうは、息子むすこたちをせて

 「いよいよ穀物こくもつみの時期じきがやってきた。れを安全あんぜんみちびくには、この時期じきやまはいってらすよりほかはない。穀物こくもつ収穫しゅうかくがすんだあと、またここへかえってきなさい。」といいました。

 ところが人々ひとびとは、シカたちが、やまのぼることもっており、もりからやまへいたる途中とちゅうみちせして、シカたちを射殺いころそうとねらっていました。

 ちから自慢じまんおとうとのシカおうは、自分じぶんほどのちからがあれば、たとえ人間にんげんつかっても仲間なかま指一本ゆびいっぽんれさせはしまいとおもっていました。

 そこで、移動いどうする時刻じこくなどすこしもかんがえず、昼間ひるま堂々どうどうれをひきいてやまへのみちあるいていきました。
 ところがみちのあちこちに、人々ひとびといきころしてかくれており、シカのれが姿すがたあらわすと、まるであめのようにんできて、シカたちはばたばたとたおれていきました。

 おとうとおうたすける余裕よゆうなどなく、いのちからがらやまのぼっていきました。

 やまうえにたどりき、のこったものをかぞえてみると、半分はんぶん二百五十頭にひゃくごじゅっとうだけでした。

 一方いっぽう思慮しりょぶかあにのシカおうは、時々ときどき村里やまざとかけて人間にんげんたちの習性しゅうせいさぐり、かれらに夜眠よるねむりにくという習性しゅうせいがあるとわかると、真夜中まよなかえらんでれをやまみちびき、無事ぶじにたどりいたのでした。

 やまなかでの四ヶ月間よんかげつかん生活せいかつあと、シカたちはまたもとのもりもどることになりました。

 おとうとのシカおうよるにこそこそりるなど、おう威厳いげんにかかわるとおもい、人間にんげんかえりまではせしまいとたかをくくっていました。

 ところがもりちかくまでやってくると、きのばい人々ひとびとせしており、二百五十頭にひゃくごじゅっとうのシカはまたたころされてしまいました。

 おとうとのシカおうだけは、いのちからがらもりにたどりきました。

 一方いっぽうあにのシカおう

 「収穫しゅうかくわったあと人々ひとびとひまになっているだろうから、つきほしよるなどもせているかもしれない。闇夜やみよえらんでやまりるよりほかない。」と慎重しんちょうかんがえ、幾晩いくばん闇夜やみよってやっと移動いどうはじめました。

 五百頭ごひゃくとうれはなん事故じこもなくもりにたどりいたのでした。

 これをむかえた父王ちちおうつぎのようなうたをたたえました。

 とくあつくて 慈愛じあいある
 もの繁栄はんえい おとずれる
 なさいあにの シカおう
 れにしたわれ やって

(ジャータカ二四八)

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